ニースから車で20分足らず。さっきまでの喧噪が嘘のように、この小さな漁村は地中海の入江にひっそりと佇んでいる。ヨットや漁船がたくさん停泊している港を中心に、陸地をせり上がる急な斜面に張り付くように建てられたカラフルな家々は、昔ながらの懐かしい雰囲気を残しつつ素敵な街並みを作っている。

ハーバー沿いには色とりどりのレストランが軒を連ね、とれたての魚介類を使った料理のメニューを見ているだけでも楽しい気分になってくる。自分の船を持っていて、朝とってきた魚をその日の内に調理してお客に出しているレストランもあるそうだ。

コクトーが修復を手掛けたというサン･ピエール礼拝堂は、小さいながら一歩中に入るとまさにコクトーワールド。やさしいタッチで描かれたメルヘンチックな壁画は、驚きを与えてくれると同時に、何だか自分を子供の頃の無垢な世界に導いてくれるような、幻想的な空間だ。

 村中に延びる小さな路地は、階段あり、洞窟のような小道あり、とまた面白い。ぽつん、ぽつんと点在するブティックやカフェ、レストランも何とものんびりした雰囲気で、おだやかな地中海の日差しと相まって心地よい時間を演出してくれる。時間がゆっくり流れている。

ゴージャスで華やかな地中海の町よりも、こんな空気が昔ながらの本当の地中海なのだろう。心地よい潮風の中で幸せな時間を味わえる素敵な港町、ヴィルフランシュ・シュー・メール。